MY EXPLORATION vol.07 ものんくる

パラディウムが掲げるテーマ、"CITY EXPLORATION(都市探検)"。現代都市探検家の姿を追いかけるMY EXPLORATION。第七回目はジャズを基軸とした楽曲で、独自の世界を創りあげる「ものんくる」。

Live photo by Shin Ishihara

2011年に吉田沙良(Vo / よしださら)、角田隆太(Ba. 作詞・作曲 / つのだりゅうた)により結成されたものんくる。
2017年に発表したサードアルバム『世界はここにしかないって上手に言って』は、iTunes、Apple Musicなど、各配信チャートのジャズ部門で1位を獲得し、今年2月には国内ジャズクラブの最高峰であるBLUE NOTE TOKYOでのワンマン公演を成功させた。ジャズを基調とした音楽の作り方に、日本語の詩と豊かな想像力を添える歌声は、受け手の環境を選ばない、ものんくるの世界を創りあげる。

角田さんはミュージシャンでありリュート奏者の父を持ち、叔父たちも著名な音楽家だ。この部分だけを切り取れば、音楽のサラブレットと感じてしまうが、幼少期から音楽が近い距離にあることで、逆に強い影響を受けなかったという。

「それこそ、母親のお腹のにいた時から、音楽が自然にあったので、興味は強くなかったんですよ。音楽の魔法に初めてかかったのは、aikoのアルバム『桜の木の下』でした。1曲目1音目から完璧に惹きつけられて、CDプレーヤーを見つめがらアルバムを通して聞いて、最後の曲が終わってCDが止まったことに気づいたら、もう一回再生ボタンを押したのも今でも覚えています」

中学時代に友人が、サッカーや野球をするように、自然な感覚で楽器へと触れはじめた。「初めて友達と組んだバンドはギターばっかりで、僕がベースを始めたんです(笑)。バンドではメロコアとかハードコアパンクの流れを組んだオリジナル曲を作ってライブをしていました」

吉田さんは物心がついた時には、楽器を演奏することや音楽を聴くことよりも、歌うことが好きだった。「幼稚園で先生に将来の夢を聞かれた時には既に、私は"歌手になる"と言っていたそうです。中学生の頃から歌手になることを強く意識し、本格的に音楽の勉強をするために、音楽科のある高校へと通い、クラシックを専攻して歌う基礎を学びました」

高校時代には自身がどのような音楽で歌いたいのか、答えは見つからず「”何を歌いたいのか"を探したい」と、音楽大学のジャズ科へと進学した。「音大ではジャズにファンク。ミュージカルから弾き語りまで、色々なことへ挑戦しましたが、しっくりこないと感じていました」

音楽への探求心からの出会い

しかし、吉田さんの探求心や挑戦は、大きな出会いへと繋がる。「大学時代にジャズのライブで角田さんに出会いました。オリジナルの楽曲を聴かせてもらったんですけど、"やりたかった音楽はこれだったんだ!"と、心を打たれました」と角田さんとの出会いを話す。

時を同じく、角田さんも音楽に対する意識に変化が生まれ始めていた。「大学でビッグバンドジャズサークルに入って、ここで初めてジャズを学びました。それから3年程たった頃ですかね。自分はそれまでオリジナル曲を作って音楽をしていたので、譜面と過去の参考音源を元に音楽を作っていく、大学のビッグバンドジャズに対して、何か違うかもという気持ちが、どんどん大きくなっていました」

「そんな時、高田馬場のジャズクラブの深夜セッションに行ったんです。その日は素晴らしいミュージシャンによるアドリブだけのジャズセッションが行われていました。僕の目にはそこにいる奏者全員が、ストイックに自分の音楽へと向き合っているように映って、すごいところに来てしまったぞと思ったのを覚えています。そこで、サックスの小西遼(CRCK/LCKS※角田さんは同バンドにも結成時所属)と知り合って、その日から何年かは、密にライブをするようになりました。小西は沙良と同じ音楽大学で、沙良とも小西のバンドで知り合うことになり、そこから仲良くなってものんくるが始まりました」

2011年、ふたりはものんくるを結成。当時、吉田さんは大学生、角田さんは大学を卒業し、ベーシストとしての活動を始めていた。「卒業後はジャズクラブだけじゃなく、レストランやバー。どこにでもベーシストとして、演奏の仕事へ行っていましたね。同時に、自分の表現する場所を広げるイメージを持ちながら、ものんくるの活動をしていました」

活動が活発化する契機は、吉田さんへのCDリリースの話だった。「大学内のレーベルから"CDを出さないか?"と、お声かけいただいて、角田さんと一緒にアルバム『SARA』を作りました。そのアルバムを名刺代わりにして、菊地成孔さんをはじめ沢山の人に渡しましたね。翌年にはMotion Blue Yokohamaでの単独公演の機会をいただきました。リリースから単独公演。この流れの中で、しっかりとものんくるをやっていこうと、お互いに意識は高まっていきました。活動スタートの流れはとてもよかったですね」

ふたりはジャズアーティストという感覚を強く持っていない。吉田さんはその時々の感覚を大切にしている。「ジャズをしているという感覚はないんです。その時に感じたものを、表現しているだけなので、どういう音楽と捉えるのかは聴く人が判断してくれればいいかなって。もちろん、その時々で流行りの音はあると思いますが、まわりに寄せたい、流行りの音作りをしたいとかは、考えずにやってきました」

角田さんも、結成から現在までジャンルという概念は気にしていない。「ものんくるを結成をした時期には、似たような音楽や形態で活動をしている人はあまりいなかったですし、ジャズやインストバンドのイベントも多い時期でしたが、どこか川向こうの話という感じがして、寂しい気持ちもありましたね。それでも、今も変わらずそうですが、僕らの音楽を信じて作ってライブをしていくだけでした」

「現在は本格的にジャズから活動をはじめていた人や、ジャズの音の作り方からバンドやポップスをする人たちが増えてきたので、過ごしやすくて、とても楽しくなってきていますね」

日本語を大切にした音楽

"桜の森の満開の下、眠る間もなく都会から異世界へ"。ものんくる「空想飛行」の一節。角田さんの書く詩は、メディアや現場など多くの場で、文学のようだと評価され、ものんくる独自の世界観を作りあげる上で外せない要素になっている。

角田さんと会うまでの吉田さんは、歌うことに対して、技術的な部分を特に意識していたと話す。「ものんくる結成前は、テクニカルな部分ばかりみていたので、言葉や詩より、音楽が重要だったんです。角田さんの音楽を聴いた時に、言葉と音楽のバランスに圧倒されてしまいました。日本語を大切にした音楽に感動を覚えたんです」

半面、当時の角田さん自身は日本語で勝負をしたいという意識は強くなかったそうだ。「詩は自然に出てくるものなので、"日本語で”勝負をしていこうとも思っていなかったし、そこをものんくるの特徴だとは考えないくらい自然に日本語を選択していました。ユニット名からもわかるように。でも、そうやって積み重ねてきたことが、ひとつのキャラクターになっているし、今は日本語を物凄く大事に、意識的に考えていますね」

ふたりだからこそできる音楽

Live photo by Yasunari Akita

幼少期から歌うことを一番に考え続けてきた吉田さんだが、一昨年には、歌うことをやめる可能性があった。「一昨年、母が病気で亡くなりました。母の病気を知った時は、つらい気持ちにもなりましたが、逆に音楽への力が湧いてきて、”新しいことに挑戦してみよう”と、新たなチャレンジから、得るものも多くありました。だけど、母が亡くなってからは、つらい気持ちが心に響いて…。小さな頃から歌うことを中心に生きてきましたが、初めて音楽をやめようと思いました。でも、その年には、初めてのCOTTON CLUBでのワンマンが決まっていて…。それなのに、やる気も自信もなくなって…」

この出来事は、角田さんにとっても同じようにつらい時期となった。「沙良は誰よりも家族のために歌を歌っているんです。なので、あの時期はものんくるとしても本当につらい時期でしたね。ものんくるの音楽は、ふたりでしか作ることができない音楽なので、どちらかが、やめたから代わりに誰か。そういうわけにはいかないんですよね。ものんくるはCDリリースの出口はメジャーレーベルですが、事務所所属ではなくフリーランスで、僕がマネージメントをして顔の見えているスタッフたちと作り上げている活動です。だから、極端なことを言えば今日にだってものんくるを終わらせることは簡単にできます。だけど、逆に捉えれば、僕らふたりがものんくるの音楽に情熱がある限り、終わりはこないんです。ものんくるが成長していけば僕らの人生にもいい風が吹くし、逆に人生の問題がダイレクトにものんくるに反映します」

それでも、時は過ぎる。COTTON CLUBのワンマン公演はソールドアウトとなり、当日を迎えた。この時、吉田さんは、自身が歌うことの大切さを、改めて知ることになった。「ワンマンを迎えた時に、私たちの音楽を、こんなにも待ってくれている人たちがいるんだと、改めて気付くとになりました。私は歌うことで、ライブで力を貰っているんです。…少しずつでもいい。少しずつでもやっていこう。そう、気持ちが動くきっかけのひとつとなりました」

世界はここにしかないって上手に言って

この時期、無理に活動のペースはあげなかったが、蓄積されるものがあったと角田さんは話す。「アルバムを出して、<FUJI ROCK FESTIVAL>にも出演して、普通ならバンドとして勢いに乗って活動していきそうな時期に、僕らは軽い冬眠に入りました。でもその間に蓄積されたものが、『世界はここにしかないって上手に言って』に繋がっている気がします」

制作部分でも、これまでの作品とは変化があると吉田さんは続ける。「『世界はここにしかないって上手に言って』は、制作に至るまでの期間から、制作中にかけても、以前より角田さんと一緒に作業した部分が増えました。これまでのアルバムと比べると、パーソナルな部分がとても含まれています。想い入れも強いです。人間味があって、人と近づける部分がある作品です」

「挫折の時期を経て、私は表現することへ妥協をしなくなりました。以前は、ステージ上で人に見られていることに対して意識を引っ張られている部分が多かった気がしますが、今はステージでも、より音楽のことを、私が表現したいことを、突き抜けて出せるようになったと感じています」

表現者として人の心を動かしたいと実直に話す吉田さんは、今、表現の受け手としても心情に変化があったという。「見に来てくれる人、聴きに来てくれている人の受け止め方や反応にも変化を感じ、より近い距離感で向かい合えるようになりました。格好つけなくても、一生懸命、自分を出し切ったほうが伝わるし、感動をしてもらえると実感しています」

挫折の時期はものんくる、ふたりで超えた。角田さんにも大きな変化があった。「もっと自分自身の限界を超えた表現や作品を作らなきゃと思っています。自分の限界を超えた瞬間というのは、そのハードルが誰かと比べて低かろうが高かろうが、人は同じくらい感動します。次の作品は前作をはるかに超えるもの作ってやろうと思っていますので、楽しみにしていてください」

MODEL


吉田沙良 / PAMPA MID LP BLACK

いつもはワンピ―スが多くて、スニーカーもあまり履かないんです。なので、スニーカーの時はパンツスタイルですね。PAMPA MID LPは、キャンバススニーカーみたいだけど、ミドルカットのキャンバスブーツで、しっかりとブーツのソールなのに、固い感じがしないですよね。履いたことのないアイテムだから、悩んだんですけど、ジーンズが合うかなと足元から考えました。後はトップスのライナーが気に入っていたので、シンプルだけど、光沢感があって、インナーにもあっているかなとスタイリングしてみました。

角田隆太 / PAMPA HI ORGINALE SAHARA/ECRU

とにかく楽でいられること。ファッションも自然体です。今回は、色が好きなジャケットをメインに、少し遊びを入れたいなと思って、かわいいなと感じた赤のインナーとソックスをセレクトしました。PAMPA HI ORIGINALEは、キャンバスのハイカットシューズと違って、しっかりとしたブーツなので、履いてビックリしましたね。

PHOTOGRAPH by ARISA ITO

PROFILE


ジャズを基軸にした独自のサウンドに詩情豊かな日本語詞をミックスし、ジャンルの枠を超えた新しい音楽の地平を切り開く吉田沙良(ボーカル)と角田隆太(作詞/作編曲、ベース)からなる、ジャズ×日本語ポップスの新感覚ユニット「ものんくる」。
2017年に発売された3rdアルバム『世界はここにしかないって上手に言って』がAmazon、iTunes、AppleMusicなど各配信チャートジャズ部門1位を獲得。オリコンウィークリーチャート初登場70位ながら、洗練されたポップセンスの中にジャズのエッセンスが光るサウンドが大きな注目を集めた。同年12月には配信限定シングル『魔法がとけたなら』をリリース、Spoify Japanとの連動企画クリスマスライブを開催。
確かな演奏力に裏付けされたハイクオリティかつハイテンションなライブパフォーマンスで、FUJI ROCK FESTIVAL 2015などロックフェスへの出演から、日本のジャズクラブの最高峰BLUE NOTE TOKYO単独公演をSOLD OUTさせるなど、全ジャンル対応でボーダレスに駆け巡る活動スタイルは今後一層目が離せなくなるだろう。
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INFORMATION


■RELEASE

TITLE:『世界はここにしかないって上手に言って』
ARTIST:ものんくる
DATE:2017/07/12
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TITLE:『世界はここにしかないって上手に言って』 (ANALOG)
ARTIST:ものんくる
DATE:2017/12/25
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■EVENT

SPIN.DISCOVERY vol.07
DAY:2018.06.10(SUN)
OPEN / START:17:00 / 17:30
PLACE:表参道 WALL&WALL
ARTIST:AAAMYYY / chelmico / MALIYA / ものんくる
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-Beachside Art Festival- Nuts Party2018
DAY:2018.07.21(SAT)
OPEN:10:00
PLACE:千葉ポートパーク 円形広場内
ARTIST:Michael Kaneko / ものんくる / SANOVA / and mor
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YATSUI FESTIVAL! 2018
DAY:2018.06.16(SAT)
OPEN / START:12:30
PLACE:渋谷ライブハウス合計12店舗
ARTIST:計91組
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Za Feedo2nd バドアスEP『Passengers』リリース!フジヤマツアー
DAY:2018.08.24(FRI)
OPEN / START:18:00 / 18:30
PLACE:新宿MARZ
ARTIST:ZA FEEDO/Nao Kawamura/AAAMYYY/ものんくる
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