MY EXPLORATION vol.03津田昌太朗

パラディウムが掲げるテーマ、"CITY EXPLORATION(都市探検)"。このテーマに呼応する、現代都市探検家の姿を追いかけるMY EXPLORATION。第三回目は日本の音楽フェスティバル業界のキーパーソンのひとり津田昌太朗さん(CHARLOTTE inc.)。

フェスが音楽の楽しさを教えてくれた

2013年に渡英し、ロンドンを拠点に2年間で約100のフェスに参加。滞在時に立ち上げた『Festival Junkie』は、日本へ向けてオリジナリティのあるレポーティングや情報発信で海外フェス情報サイトの先駆けとなった。2015年に帰国しCharlotte inc.を設立すると、日本最大級の音楽フェス情報サイト『Festival Life』やフジロックのプロモーションメディア『富士祭電子瓦版』を運営。国内外フェスやフェスに関わる企業へのコンサルティングに加え、雑誌連載やラジオパーソナリティまでこなすなど、音楽を軸とした活動は多岐にわたる。

幼少期より音楽が好きだったが、大学進学に伴い上京するまでは自身と音楽の現場への距離感に対してフラストレーションを募らせていた。「実家の近くにはレコード屋もないし、生で音楽を聴ける機会もほとんどなかった。父が洋楽好きだったので、子どもの頃からどうにか音は入ってきても、なかなかライブへ行けないのがコンプレックスでしたね。大阪まで数時間かけて洋楽アーティストのライブに行ったのをよく覚えています」

「東京に行くお金がなくて、大好きだったTHE MICHELLE GUN ELEPHANT(ミッシェル・ガン・エレファント)の解散ライブにも行けなかった。当時はもう2000年代前半で、それより少し前ならライブレポートを雑誌で見て、行けなかったことを後悔するだけでよかったけど、ネットで速報をあげる人もいたので、そういうのを見てずっと嫉妬していました」

フェスを通して続く出会い

上京以前より、ライブは大好きだが、フェスは好きではなかったという。「フェスに行きはじめた15年ほど前は、今と比べると環境がそこまで良くありませんでした。音も良くなかったし、暑かったり、雨が降ったり。アーティストも自分のファンだけを相手にしているわけじゃないから、ワンマンライブのような一体感もない。何より、好きなアーティストを見に行っているのに、演奏が40分ほどで終わってしまう演奏の短さに、10代のライブ少年は満足できなかったんですよね。だけど、友人と一緒に参加した<SUMMER SONIC(サマーソニック、以下、サマソニ)>で、自分の知らないアーティストと出会う楽しみを知って、そこからドンドンはまっていったんです」

「音楽って知る過程も楽しいじゃないですか。やっぱり音楽は面白いなって。自分で好き嫌いを決めつけずにたくさんの音楽を聴きたい。フェスはそこにマッチしていましたし、音楽にのめり込む楽しさをもう一度教えてくれました。J-POPも洋楽ロックも、なんでもラインナップされている<サマソニ>が印象を変えてくれましたね」

「地元にいる頃から<FUJI ROCK FESTIVAL(フジロック・フェスティバル。以下、フジロック)>に行きたくて、物理的に<フジロック>へ近づきたいというのも東京に来た理由のひとつでした。でも、もともとアウトドアもほとんどしたことがないし、知識も皆無。車がエンストしたり、テントが雨で流されたり、今思うと散々な目にあいましたが、一度体験してみたら、本当に魅了されてしまって」と初めて<フジロック>へと参加した時のことを振り返る。

「フジロック以外にもたくさんのフェスやライブに行って、東京のレコード屋でバイトして、音楽やそれにまつわる文化に詳しくなったつもりでいたのに、知らないことだらけだったんです。自然の中で聴く音楽。さんざん歩いてやっとたどりついて見るライブ。そこで初めて出会う音楽。そして音楽以外にも自然を感じることや、そこにいる人から学ぶこと。自分が知らないものにたくさん出会わせてくれたのがフェスで、また知りたくて行って、知らないこと知って、また好きになる。この繰り返しですね。知らないことや体験したことがないことがあると、ワクワクするというか、コンプリートしたくなる性分なので、フェスに行って知らないことを知るのが楽しくて仕方なかったんですよね」

遊んでいるように仕事をする

世界最大級の音楽フェス<Glastonbury Festival(グラストンベリー・フェスティバル。以下、グラストンベリー)>にThe Rolling Stones(ローリング・ストーンズ。以下、ストーンズ)が初出演することが、"日本のフェスが詳しいロック少年"の人生を変える。「広告代理店で働きはじめて5年目を迎えた2013年。結成50年となるストーンズの歴史の中で、初の<グラストンベリー>の出演が決まりました。イギリスでストーンズを見ること、<グラストンベリー>へ行くこと、このふたつは小さな頃からの夢だったので、何としてもその場所に行かなければと感じました。そして、その<グラストンベリー>を経験して帰国したその日に、会社に辞表を出して、そのままイギリスにとんぼ返りして、ロンドンに活動拠点を移しました」

「ヨーロッパを中心に世界中の海外フェスをまわってアーカイブ化したら面白いんじゃないかと思ったんです。日本の音楽フェスはそれなりに詳しかったし、当時もそういう人はいたけれど、自分は世界のフェス事情を理解したかった。自分が受けた”移住するほどの衝撃”が何だったのかを知りたかったんです。そして、世界のことが分かれば、それを日本に持ってくることだってできる」

海外フェス情報サイトの先駆け『Festival Junkie』を立ち上げた後には、フェスの企画や運営にも携わるようになる。「例えば、海外のフェスが日本へ入ってくる時に、『向こうではどんなフェスで、日本ではこんなことができる』といったコンサルティングやアドバイスをしたり、日本のアーティストが海外フェスへ出演する際のお手伝いをすることもあります。趣味を仕事にしたら楽しくなくなると言われることもあるけど、個人的にはそういうのはないですね。遊んでいるように仕事をして、仕事しているようで遊んでいるみたいな感じです」

MODEL


PROFILE


2013年に博報堂を退社し渡英。2年間で約100の海外フェスに参加。滞在時に日本初の海外フェス情報サイト『Festival Junkie』を立ち上げる。帰国後、CHARLOTTE incを設立すると、『Festival Life』、『富士祭電子瓦版』などのメディアを運営し、国内外フェスのコンサルティングに、雑誌連載、ラジオパーソナリティなど、音楽を軸にした活動は多岐にわたる。『Festival Junkie』は2018年にリニューアルオープン予定している。

INFORMATION


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世界中の音楽フェスをめぐり、海外フェス情報をアーカイブしてきた Festival Junkieプロジェクトが来春にリネームして再スタート予定。
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