MY EXPLORATION vol.08 AQZAWA(Beatnik Edition)

今シーズン、50年の時を超えて復刻したキャンバススニーカーPALLAPHOENIX(パラフェニックス)は、1960年代後半のビートニク精神を内在したモデル。ビートニクのとらえ方や定義は、ファッションや音楽、文学などにより様々だが、自由を求めるための挑戦や革命、ユニークであり、何ものにもとらわれない精神ということに変わりはないだろう。

今回、現代日本の都市生活で、ビートニク精神を持つ人物をフィーチャー。タイムマシーン代表取締役であり、同社が手掛けるブランドALDIES(アールディーズ)、ELDORESO(エルドレッソ)のデザインを自身で手掛けるデザイナー、阿久澤隆(以下、AQZAWA)さんへインタビューを敢行した。

エリートランナーからファッション業界へ

ALDIESは、多彩な色使い、大胆で独自な手法。AQZAWAさんの世界観が存分に発揮され、常に新しいクリエイションへと挑戦し、オンリーワンであり続けているが、彼はかつて箱根駅伝を目指すシリアスランナーだった。

「大学2年生までは陸上競技に情熱を捧げていましたが、合宿所生活を通じ、エリートランナーたちと寝食を共にする中で、肉体的なレベルで挫折し、走ること自体を辞めました。それからは、下北沢で一人暮らしをはじめて、クラブ通いや古着屋巡りへとのめり込んでいって、気が付いたら、陸上競技への情熱は、遊びへと捧げることに変化していました。その中で、セレクトショップでアルバイトをはじめたのが、アパレル業界に入ったきっかけです」

「ALDIESは、当初は独立したブランドとして、スタートしたわけではなかったんです。ALDIESを立ち上げる前に、友人たちとドメステックブランドを3年程やっていました。解散することになったんですけど、同時期に友人から、『合同展示会をやるから出ない?』とたまたま誘われて、その展示会に間に合わせるためにアイテムを作り、なんとなくひとりではじめました」

学生時代は陸上に打ち込み、デザインの勉強を専攻していたわけではなかったため、アパレル業界に入ってから現在まで、日々勉強だという。「正直、今もモノづくりに関してはわからないことばかりです。工場の方にも、毎回、わからないことや気になることは、しつこいほど、聞いて勉強しています。それでも、“このままではいけない”と、そう感じたので、今年から、改めて通信教育で服飾の基礎を勉強しています」

LOVE & JOKE

AQZAWAさんが手掛けるアイテムには、特徴的で多彩な色づかい、大胆な切り返しやパターン、独自の大胆な感性が表現・反映されている。それは、流行に対する反応よりも前に立ってくる。こうした感性のルーツを尋ねると、これもまたユニークな回答が返ってきた。

「友人たちとドメステックブランドを展開していましたが、全く食べていけず、30才までラブホテルで清掃員のバイトをしていたことが生活の中心だったのは大きいと思います。捨てる物が無いとは言いませんが、この時期があったからですかね。ふたつの道があった時に、僕はチャレンジする道を選ぶようにすることにしました。その方が、絶対に楽しいしですし。モノづくりにおいても、アイデアがぶつかった時には、より強烈な方向を選ぶようにしています」

ALDEISの『LOVE&JOKE』という、インパクトあるブランドコンセプトは、こうしたAQZAWAさんの背景に関係があるのかもしれない。「LOVE&PEACEという言葉が好きなんです。ALDIESをはじめるにあたって、『何を表現したいのか?』と考えた時に、純粋に愛と笑いに溢れているアイテムを制作できたらいいなと思ったんです。こだわりというものとは違うかもしれませんが、”スピード感”と”?”は、意識していますね」

安定より、飛び出すことを選ぶ

ALDIESはアメリカ、香港、台湾などでも展開。2013年には<Vancouver Fashion Week>から招待を受け、ランウェイに登場。

その後、北米での活動は活発化。<PROJECT New York | MAGIC>、<AGENDA Show In New York.>など国際的な展示会へと出展しファンを獲得している。

満足するという危機感

ALDIESの人気が高まり、AQZAWAさん自身も、ファッション雑誌を中心に、さまざまなメディアで取り上げられていた2010年初頭。AQZAWAさんは、アジアや北米での展示会で認知と販路を拡大し、海外への挑戦の準備を進めていた。ただ、海外志向があるわけではないという。

「日本は最高な国だと思っているので、国外へと飛び出したいとつよく想ったことはないんです。僕は直ぐに満足してしまうタイプなんですよね。2009年に、下北沢の一番街商店街の長屋にあった2階で、小さなショップを出した時に、ふと、”やり切った”という感慨に浸ってしまって。その後も、山を越えると直ぐに満足してしまう。そんな時、“これは危険だ”という感覚が生まれました。それから、誰も自分を知らない。言葉も通じない所へ行けば、何かが変わるかもしれない。そんな安易な発想で、2010年1月、香港の展示会へと出展しました。でも、どんな展示会なのかきちんと調べないままだったので、初の海外展示会は、肉と野菜に囲まれたファッションではない展示会でした (笑)」

そのような経験も経て、アジアでの展示会は定期的に行い、アジアでのALDIESファンを増やし続け、現在では国外のビッグネームがALDIESのアイテムをセレクトして、ライブのステージに立つということも起きた。現在進行形であるが、海外での挑戦をすることにより変わったことや、日本とは違う環境で受けた影響、感触はいかようなものだろう。

「アジアへの展開もそうですが、北米に出るようになったきっかけも、自分を満足させないためです。僕はモノづくりをする人が、満足に浸っていては絶対にダメだと思っています。僕は簡単に満足をしてしまう節があるので、満足症候群になってしまうことが壁なんです。満足してしまうと、やはり、やる気が起きなくなってしまいます。そんな時はあえて深く考えたり、調べたりはしないで、無謀な挑戦をするように心がけています。相変わらず英語は全然喋れないままなので、海外ではトラブルも多々ありますが、そういうジェットコースターのような刺激がとても心地良かったりするんです」

「日本だと、やはりその人の背景や肩書。それに、ジャンルやカテゴリーのような”くくり”が邪魔する節が大きいと感じますが、海外では、いい意味で、誰も僕らのことを知らないので、”お前イカれてるな!”、“お前カッコいいな!”って、フラットに反応してくれるので、そういう感覚はとてもいいですよね。当初は勢いだけで海外展開をはじめて、何も考えていなかった部分が大きかったですが、流石に3年以上経つので、色々と冷静に物事を見ることができるようになりました」

現在のクリエイションと共に、再び走り始める

一度は離れていた陸上競技だが、現在は国内外を問わず、フルマラソンやトレイルランニングへと活発に参加。ファッションやランニングを中心としたメディアでもAQZAWAさんは取り上げられているが、学生時代とは、また違う感覚でマラソンと向き合っているという。

「現在はシリアスランナーではなく、走った後のビールを楽しむファンランナーです。タイムももちろん気にしていますが、ランニング仲間と大会に出場することや、プロセス自体を楽しんでいます。やはり、走ることは根本的にはキツイので、走っている途中は諦めたくてしょうがないですよ。走り終わった後は”2度と走らないぞ!早くゴールしてビール飲むぞ!”って。それでも、また参加するんです。この繰り返しですね」

もちろん、走ることで得る高揚感もある。「マラソンは国内外を問わず、各都市の名所を回るコースが多いので、フルマラソンだと4時間程度で大体の観光名所を巡ることができるのは面白いですね。なにより一番楽しいと感じることは、それまで駅前の繁華街しか知らなかったのに、朝から自分の足で走って街を駆け抜けると、洗濯物が干してある何気ない生活の情景、田園風景に入った時の匂い。走っている時にしか感じることができない世界は、この上ないですよ」

そんなAQZAWAさんは、2016年、"走る"ということに紐づくプロジェクト、ELDORESO(エルドレッソ)を始動した。同ブランドは、わずか2年にして多数のメディアに取り上げられ、また、一般ランナーからの支持も広がっている。

「5年程前に、取引先の方にトレイルランの大会に誘っていただいて、17年ぶりに走り出したことがきっかけです。17年前までは、競技者として走るということに対しての意識が強く、走る楽しみはタイムだけでした。久しぶりの大会は、もちろんタイムは遅かったんですが、そんなことよりも、自然の中で泥だらけになって走っていたら色々なことを忘れさせてくれて、昔とは違った感覚で”ハマり”ました。それから、3年ほど準備をして、今の僕が考えるランニングウェアをつくりはじめました」

ぎりぎりの一線をためらわない

ファッションに対する消費者の物価的価値観や、トレンドサイクル、ジャンル・カテゴリーの細分化は目まぐるしく、ファッション業界はとても流動的だ。ブランドを立ち上げ、デザイナーの活動と並行し、会社経営も行っている。ファッション業界で挑戦を続け10年以上が経ち、直営店もオープンから10年。現在は、渋谷、岡山、名古屋に店舗を構えている。

インタビューの最後にAQZAWAさんにとってのファッション、そして今後の活動について聞いてみた。「ファッションは、これ以上無い遊びです。今後の展望とかもなくて、今まで通りに、その場その場の思いつきで、厳しいけど、こっちの方が楽しいだろう。そういう方向を選んでいくだけです」

そして、ファッションがもたらす喜びについても教えてくれた。「10年以上前のアイテムを着用してくださる方を見かけた時などは、幸せな気持ちになりますし、いつまでも自分自身が作るものに対して、ワクワクやドキドキをいつまでも感じてもらえるようにいたいなと思います。なので、これからもそう感じてもらえるような世界感を目指し、続けていきたいと思っています」

Photographer:Mayumi Komoto

MODEL / COORDINATE


ALDIES

Dress・Skirt:Border Long OP

Cap:Scissors Beret / Big T-Shirts:Dyeing Wide T / Shirts:Stand Flower Shirt / Long Pants:Thin Climbing PT

PALLADIUM

SHOES:PALLAPHOENIX OG CVS DAFFODIL / PALLAPHOENIX OG CVS OLIVE

PROFILE


群馬県出身。数々のブランドで、生産管理・企画・営業を経験し独立。2004年「ALDIES」レーベルで帽子・バック作りをスタートする。2007年下北沢に直営店(NAPOLEON FISH)をオープン。2010年1月 ブランド初の海外展示会(香港)。2013年3月、Vancouver Fashion Weekにランウェイで参加。
現在、海外ではアメリカ・香港・台湾で展開。゛ぎりぎりの一線゛をためらうことなく自由に行き来するものづくりは革新的でまさにボーダーレス。アパレル業界だけでなく異業種からも注目されはじめている。

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