MY EXPLORATION vol.05 葛原信太郎

人が生きやすくなるような価値観を広めていきたい

パラディウムがテーマにする"CITY EXPLORATION"(都市探検)インタビュー第五回目は、earth gardenの編集長・暮らしかた冒険家スタッフとして、横浜と札幌の2都市で活動する葛原信太郎さん。

オーガニック&エコロジーをテーマにした「アースガーデン」

葛原さんは横浜生まれ、横浜育ち。大学卒業後、大手企業に就職したが1年で退職。その後、雑貨屋の開業・廃業を経て、earth garden(以下、アースガーデン)で編集を担当。2015年末からはフリーランスになったが、現在も編集長を務めている。

アースガーデンは、オーガニック&エコロジーをテーマにした野外フェスの制作オフィス。代々木公園でシーズンごとに行うコミュニティフェス<earth garden>や、山梨県道志村でのキャンプフェス<Natural High!>を主催。葛原さんは、イベントと読み物を繋げるウェブマガジンとフリーペーパーだけではなく、野外フェス制作と運営もおこない、現場の活動でも汗を流す。

東日本大震災の翌年より、アースガーデンでは<Peace On Earth / earth garden “灯”>を開催。シーズンごとに行うものとは異なるイベントを実施してきた。今年も3月11日(日)、日比谷公園で震災から日本の未来を繋ぐイベントを実施する。葛原さんは、「エコだけじゃなく、いろんな問題が露呈したのがあの震災だと感じました。<Peace On Earth>は、 3.11を追悼するイベントですが、あの日を思い出して、自分自身や社会を振り返る機会になってほしい。地震のあとに、私たちに何が起きたのか、どんな気持ちになったのかを忘れないことが大事だと思うんです」と話す。

予測不能な変化へ対応していくという冒険

現在の自分があるのは、「適度にまわりに流されてきた結果」だと葛原さんは話す。「大学時代に自然エネルギー普及活動のNPOに参加していましたが、これは、学生時代に出会った先生が誘ってくれたから始めましたし、アースガーデンも声をかけてもらって働き始めたんです。主体的にリーダーシップをとってアクションを起こすことは苦手だし、あまりしません。ただ、目の前にチャンスだと思うものが転がってきたら、恐れずキャッチすることだけは、昔からやってきたように思います。逆に言うと、それだけです」 「現代のライフスタイルや価値観は多様です。超高齢社会、人口減少、家賃高騰など、いろんな変化に対し、先回りをして考え、対応していくことが求められていると感じています。こうした変化に対応するのも冒険じゃないでしょうか。"目の前に流れてきた何かをキャッチする"ことと、似たような感覚かもしれないですね。誰かのアクションによって生まれる変化に対して、自分のこだわりの中で柔軟に対応しています」

癒しのためではない2拠点生活

主体的にアクションはあまり起こさないと語る葛原さんだが、大きな決断は行ってきた。新卒で入った会社を辞めたのも、2016年からフリーランスとなり、札幌にて『暮らしかた冒険家』のスタッフを兼務してから、横浜と札幌の2拠点居住をスタートさせたのもそうだ。

暮らしかた冒険家とは、ソーシャルグッドな広告制作を生業としながら、暮らしにまつわる常識を再構築するユニット。特に、人類史上初の人口減少、経済の縮小といった近い将来に起こる事実を前に、幸せや豊かさにまつわる当たり前を見つめ直す試みを札幌から発信している。

「2拠点生活や移住って「土日は田舎でのんびり、平日は都市で働く」とか「リタイア後のゆとりのある生活」というイメージがあると思います。地方の行政もそうやってPRしていますし。でも、僕はちょっと違うんです。どちらも仕事の場として通っています。札幌は、政令指定都市ですし、国内で4番目に人口の多い大都市です。横浜も都市なので、癒しというよりは攻めというか(笑)。イベントやフリーペーパーの制作など、仕事の半分くらいは、場所に縛られる仕事ですが、もう半分はリモートワークが可能です。フリーランスになるにあたって、面白い仕事をしている人、尊敬できる人と一緒に仕事をしたい。そういう想いがあったので、暮らしかた冒険家で仕事ができないかと、自分からオファーを出しました」

「暮らしかた冒険家では、農家の方のウェブサイトを制作し、お米や野菜でお支払いをしてもらう、『物技交換』という仕事のやり方があって、自分もオーガニックな野菜を自炊に使っています。そういう生き方を身近に見ていて、自分の生き方に対する解像度が上がっているように思います」

生き方を自分で設計する

「決断って、何かをズバッと辞めて、新しいことに全速力というイメージがありますが、お店を始めた時も、アースガーデンに入った時も、フリーランスになった時も、それぞれ終わっていくことと、始まっていくことのグラデーションがありました。階段の一歩一歩を確かめながら進んでいる感じです。そういう中で始めた2拠点生活なので、不便なことがあまり無いように、生き方や働き方を設計しました。今後は、年に1ヶ月くらいは、海外で暮らしてみたいという妄想もありつつ、語学力が足らないので、google翻訳のさらなる進歩に期待しています(笑)」

生き方には無限のグラデーションがある

現在、横浜と札幌に生活拠点を構えるが、生まれ育った横浜は大切な場所であり、現在の価値観や活動に影響を与えていると葛原さんは話す。

「昔からヒップホップやクラブミュージックが大好きで、横浜にはOZROSAURUSやDS455、FIRE BALLにMIGHTY CROWNと、シーンを代表するようなアーティストが活動をしています。大学生の頃はダンスサークルに所属していてTHE BRIDGE YOKOHAMAという元町のクラブによく行っていました。横浜駅西口にあったHMVには毎日のように通って新譜を聴いていましたし、今でも良く聴いているNITRO MICROPHONE UNDERGROUNDのメンバーがアパレルショップを開いていた時期には、洋服もよく見に行っていました。でも、とにかく高かったから買ったことはないんですけど(笑)」

異国文化の開国地であり、多文化共生を掲げる地域として知られる横浜には、観光客があまり目にしない別の顔があるという。「横浜は、みなとみらいという観光地としての極値がありますが、その反対側には、関東屈指の青線地帯として知られた黄金町。飲み屋が所狭しと並びつつ、昼間は家族連れが動物園に遊びに来る野毛に、日本三大ドヤ街のひとつ寿町というディープな場所もある」

「これだけ狭いエリアで多種多様な生活や人間らしさを感じられる街は国内でも希少です。それでも、この街では、それが自然に成り立っていて、人々は違和感もなく受け入れて生活をしているように思います。こんな横浜で生まれ育ったからこそ、芽生えた価値観もあります」

「自分は、針の振れ幅の極値と極値の間に、無限のグラデーションがあることを大切にしています。文章を書いて、読む人へと届ける時も同じです。人は0か1で決めたがるけど、『嫌いじゃないけど好きでもない』。そういう曖昧な感情もあります。それに、自分にとっての正義は、誰かにとっては正義ではないかもしれない。SとMの両極の間には、数え切れない快感を得るポイントがあるように、幸せや楽しみは本当に多様。だから、マイノリティの人たちが、少数意見だからといって疎外感を感じたり、不安になったり、生きる喜びを阻害するような不要な悩みを持ってしまう現状が嫌なんですよ」

人が生きやすくなるために文章を書き続けたい

アースガーデンの編集長でありながらも、『Meet Recruit』やビジネスインスピレーションメディア『AMP』、持続可能な社会を目指すウェブマガジン『greenz.jp』などでも執筆をしているが、リゾートホテルの成長戦略や玩具会社の環境問題、インドの宇宙戦略や野菜とお肉のバルについての記事などと、そのジャンルは幅広い。記事を読んでいくと、未来へのまなざしや新しいものへのチャレンジ、人として暮らしやすい生活など、葛原さんが培ってきたものや、大事にしている考え方を感じとることができる。

「幸せを感じるポイントって人それぞれ違うものなので、それをなるべく阻害せずに、それぞれが生きられるようになれば、一人ひとりが生きやすくなると思うんです。『多様でないことを認めるのも多様性』という人もいるけど、その意見の先に誰かの生きやすさが阻害されているなら、ぼくは断固反対します。『多様性を認める』ことそのものよりも大事なことがあると思います。そういうことを伝えたくて、僕は文章を書いているんだなって、ここ数年で気がつきました。メディアに携わる人間として、自分の芯はなんとなく作れた気がします」

INTERVIEW by Erina Wataya 

MODEL


CRUSHION CVS BLACK/BLACK

厚手の生地で冬の札幌でも過ごしやすく、ブーツほどにゴツくないので横浜で履きやすい。2拠点生活にピッタリの靴だと思います。

CRUSHION UNCGD

PRICE:¥13,824(tax incl.)

PROFILE


ライター / エディター / 野外フェス制作
野外フェスの制作オフィス「アースガーデン」でカルチャーやものづくりを扱うフリーペーパー&ウェブマガジンの編集長と、ソーシャルグッドな広告制作ユニット「暮らしかた冒険家」のスタッフを兼務するフリーランス。ライターとして、リクルートホールディングスのオウンドメディア「Meet Recruit」やビジネスインスピレーションメディア「AMP」、一人ひとりが『ほしい未来』をつくる、持続可能な社会を目指すウェブマガジン「greenz.jp」などで執筆する他、<FUJI ROCK FESTIVAL>や<朝霧Jam>、<ap bank fes>などの野外フェス制作にも携わる。横浜と札幌の2拠点居住。Nujabesが好き。

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