曽我部恵一
City Explore × City of Culture 下北沢

2019年12月7日(土)、8日(日)に東京・下北沢を舞台に開催された東京屈指のサーキットイベント<下北沢にて’19>。パラディウムと<下北沢にて>のコラボレーションコンテンツのポスター第2弾には、曽我部恵一、有馬和樹(おとぎ話)の両名が登場した。

今回のコラボインタビューは曽我部恵一さん。『もともと遊びに来ていて、徐々に近づいて、気がつけば住んでいた』という下北沢の街で、曽我部恵一さんは何を考え、走り続けているのか。下北沢の街を歩きながら話を聞いた。

『いい曲を作りたい』その思いだけで
流れに身を任せて、生きてきた。

決して広くはないエリアにここまでの数のライブハウスが点在する街は、他にはそうない。下北沢にはいつも音楽がある。下北沢の日常には、いつだって音を奏でるミュージシャンたちがいるのだ。その下北沢の街に住むミュージシャンの代名詞的存在なのが、曽我部恵一さんだ。

『振り返れば色々ありましたけど、自発的に努力して壁を乗り越えようとか、困難に立ち向かおうなどというのは、あまりなかったですね。割とのんびり、適当に生きているので。行き当たりばったり流れに身を任せているだけです。例えば、今日曲を作らなきゃいけないんだけど、できないという時は無理にやらないですし』

『中学2〜3年の頃だったかな、ミュージシャンになりたいと思ったんです。ローリング・ストーンズとか音楽やって暮らしていて、おまけにめっちゃお金を持っていていいなぁ。僕も音楽で飯を食いたいなって。というのも、会社勤めが嫌だったんですよね。そもそも朝起きるのが苦手で、学校行くのも苦痛だった。決められた時間に学校へ行って、なんの興味もない授業を一方的に受けなきゃいけない。学生時代はそれが人生の長い時間を占めていたわけで、せっかく卒業するのにまた仕事で自由がなくなるのは嫌だったんです。朝自由に起きて、好きな本読んで、好きな映画観て、“ポローン”とギターを弾いて、きれいな女の子とデートして、家族で笑っていたかっただけなんです』

『走り続ける原動力とかもなくて、好きだから続けている。それだけです。飽きたらスパッとやめてしまうかもしれない。今朝もラモーンズのファーストアルバムを聴いてきたんですけど、初めて聴いた中学生の頃と変わらない気持ちで聴けるんです。むしろ歳をとって、もっと深く聴けるようになった気がします。例えば、彼らの本などを読むと、いろんなことを考えて大変な局面をどう乗り越えてきたかがわかる。すると、メンバーの生きてきた人生も音として突き刺さるから、響き方も変わるんです。だからずっと飽きないのかもしれない』

『20代前半からずっと曲を作っているけど、ブライアン・ウィルソン(ザ・ビーチボーイズ)とかジョン・レノンみたいな曲はいまだに書けてない。ジョン・レノンの『イマジン』とか、シンプルに感動するじゃないですか。言葉がわからなくても、そこにその人の全てが息づいていて、曲の中にジョンが生きている。僕は、そういう曲を作りたいという思いだけで音楽を作り続けているんです。ちょっと近づいたかなって思う時もあれば、全然ダメだなっていう時もあって、それの繰り返し。多分、死ぬまでそれですね』

居心地の良いそれぞれの場所で
自由に生きていけばいい。

1994年にサニーデイ・サービスのヴォーカリスト/ギタリストとしてキャリアをスタートさせた曽我部さんは、バンドでもソロとしても。はたまた、多角的に音楽と関わりながらキャリアを築き続けているが、自身は、キャリアの過程で迎える局面も局面ととらえず、独自のスタンスで音楽と向き合っている。

『若い子と話すと、何かを成し遂げなきゃと焦っている子って多いなと感じます。うちの一番上の子も、普通の公立高校ですけど、高2から将来の目標や、どんな仕事に就きたいからこの志望校を選ぶとかっていう書類を出さなきゃいけなかったんですね。でも、うちの子はなんの仕事をしたいというのがまだなくて、何を書いたらいいかわからないと悩んでいた。だから「決めてないなら決めてないでいいんじゃない」って言ったんです。「やりたいことなんて50歳になって見つかるかもしれないし、高校2年生で無理に見つける必要なんてない。死ぬまでに何か見つかればいいんじゃないの?」って』

『結局、問われていることって、“自分がこう生きたい”っていう話じゃなくて、どうやってお金を稼いで生きていくかっていう方法論なんですよね。でも、どうなれば成功で、これが正しいというのはない。その人の居心地、生き心地が全てだと僕は思う。一般的に見て、例えば、高学歴で大企業に勤めれば居心地が良さそうに見えがちかもしれない。でも蓋を開けてみれば、意外と自殺者が多かったりするわけで、決してそこが正しい場所ではないことがわかる。それぞれの人にそれぞれの居心地のいい場所があると思うんです。「とりあえずバイトしてます」だって、その人がそうしたいのならそれでいい。夢を見て、頑張ってみて、違ったとなればやめたらいい』

『僕も自分にとって居心地のいい場所で、のんびりと適当にやっていたいだけだし、みんな自由に選べばいいと思うんです。考えてみたら、人間なんて死ぬまで数十年程度のターム。きっと、逃げきれますよ。ここまでに成功しなきゃとか思っちゃうと、大変じゃないですか。それでも、自由気ままに生きていると、大変なことももちろんあります。昨日もライブやって、仕事をいくつか片付けたら寝るのが夜中になっちゃって。僕はシングルファーザーで子どもを3人育てているから、朝6時半くらいに子どもたちを起こさなきゃいけないんです。でも、今日は全然起きられなくて、学校からの電話で目が覚めました(笑)。こういう時に “しっかりしないと”ってやっぱり落ち込みますよ』

『人と比べて、人が羨ましく思うときだってもちろんあります。ただ、他の人になったところで、そういう羨む気持ちは持っているだろうからね。誰でもそうで、そう思うと、高田渡さんが歌っている“今いるところが一番いい”という心境に行きつくんです』

全体を俯瞰して物事を見れば、
そこからアイデアは生まれるはず。

『「音楽制作して、ライブして、レーベル運営して、さらに育児もして、大変じゃないですか?」なんて聞かれることもありますが、僕の場合は、忙しく動いているほうがいいんです。ライブをやればやるほど、クリエイティブな気持ちが加速していく。クリエイティブな脳の部分、創造性は動かせば動かすほどいい。もちろん、子育てとの両立が大変だと感じたことはあります。スタジオワークをしていて、お迎えに行くというのを何年もやっていましたが、最初の頃は「せっかく今いいところなのに…!」ってストレスを感じたこともあった。でも慣れたんですよ。そこで中断されたと思わず「逆にいい強制終了が神様から命令として与えられた!」そう捉えたほうが絶対にいい』

『一旦ギターなりパソコンなり、集中していたものから強制的に離されたとしても、自分の制作している心が続いていて、ここも制作のいち場面だと思えれば、お迎えに行ったからこそ見られた風景だとか、そこからアイデアが不思議と湧いてくるんです。大きく捉えられるかが大事だと思いますね』

若い人は、自分が住む街で何かを始めてみたらいい。

『下北沢に住むミュージシャンの代表のようによく言われますが、ただ好きな街に住んでいるだけなんです。下北沢に住む前は明大前駅に住んでいたんですけど、ご飯を食べに行くってなれば下北沢に出ていたし、ちょっとずつ近づいて、いつのまにか住んでいた。街がコンパクトにまとまっていて住みやすいんです。渋谷はデカすぎるし、歌舞伎町は怖い。下北沢はちょうどいいんですよ。友達に会うし、ライブハウスもカレー屋さんも中古レコード屋さんもいい古着屋さんもある。やっぱり好きな街です。ただ家賃は高い。それは勘弁してとは思うけど(笑)』

『ただ下北沢に何か特別な文化が根付いているとは思っていなくて。2000年くらいに個人事務所をつくろうとした時に当時の社長に、「下北沢でいいんじゃない?」って言ったら、「いや、音楽事務所で下北沢はないよ。青山とか六本木でしょ」って言われて、それもそうかなと。最初は裏原宿に事務所を借りたんですけど、完全に自分で独立する時に、生活の場所で仕事するって決めて、下北沢に事務所を構えただけ。だから“下北沢の魅力に取り憑かれて事務所を構えた”わけじゃなく、自分がチャリで通いやすいという理由だけでした。結局、どこだって良いと思うんです。若い人たちも、チャリで行きやすい場所で何かを始めたらいいんじゃないかな』

ファッションは遊び心。靴には生き様が出る。

『人間ってアイデンティティだけで生きることができて、極端に言えば、ランニングと短パンだけでも生きていける。それが格好いい。でも、僕にとってファッションって、そうじゃないところ、アイデンティティから逸脱するところにちょっと遊びに行く感覚ですね。ちょっとチャラいけど、今だけの流行り物を身につけたり、それが楽しい。部屋に花を飾るのと一緒。花は枯れるし、花がなくても生きていける。でも部屋に花があるとちょっと素敵ですよね。それと同じで、なくても生きていけるけど、あるだけで人生が華やかになる、エッセンスのようなものがファッションです』

『靴を見ると、その人がどう生きてきたかがわかると僕は思っている。パンクロッカーがボロボロの擦り切れたスニーカーを履いているのとかがまさにそうで、その人の生き様が出るなって思うんです。買い換える寸前まで履きたおすところに精神性を感じるし、頑張っているな、格好いいなって思いますよね』

下北沢にて

『毎年頑張っているなと思っている<下北沢にて>。今年は演者として盛り上げた。こういったフェスは、知らないバンドや興味のないバンドをあえて観てみると、結構おもしろいと思いますよ』

Photo by Nozomu Toyoshima
Interview/Text by Kimiko Okatsu
Edit by MK(OM)
Special Thanks:下北沢にて'19 / 下北沢 / 近松

『曽我部恵一』
PROFILE
MODEL/PRODUCT


『PALLADIUM×下北沢にて’19』
特設ページ

PROFILE


1971年8月26日生まれ。乙女座、AB型。香川県出身。'90年代初頭よりサニーデイ・サービスのヴォーカリスト/ギタリストとして活動を始める。1995年に1stアルバム『若者たち』を発表。'70年代の日本のフォーク/ロックを'90年代のスタイルで解釈・再構築したまったく新しいサウンドは、聴く者に強烈な印象をあたえた。2001年のクリスマス、NY同時多発テロに触発され制作されたシングル「ギター」でソロデビュー。2004年、自主レーベルROSE RECORDSを設立し、インディペンデント/DIYを基軸とした活動を開始する。以後、サニーデイ・サービス/ソロと並行し、プロデュース・楽曲提供・映画音楽・CM音楽・執筆・俳優など、形態にとらわれない表現を続ける。

OFFICIAL SITE:https://www.sokabekeiichi.com/

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MODEL/PRODUCT


曽我部恵一 Selected
PAMPA EARTH
パンパ アース
COLOR:ROSE DUST

MEN / WOMEN

下北沢にて’19


 

DAY:2019.12.07(SAT) / 2019.12.08(SUN)
PLACE:GARDEN / SHELTER / 251 / 440 / BASEMENTBAR / THREE / 近松 / MOSAiC / Daisy Bar / Laguna / ERA / GARAGE / WAVER / ReG / mona records / Que / 下北線路街「空き地」
TICKET:e+
URL:https://www.shimokita-nite.net

主催 : 下北沢にて制作委員会 / THEラブ人間
協力 : 下北沢あずま通り商店街/下北沢一番街商店街/ILOVE下北沢/しもきた振興組合
協賛 : PALLADIUM / BIG UP!
後援:Inter FM / 世田谷区

コラボステージ
でらロック:https://derarockfes.radcreation.jp/
見放題:https://www.mihoudai.jp/
テレビ東京「音流」:https://www.ttmnet.co.jp/blog-onryu/
FREE THORW:https://blog.livedoor.jp/freethroww/

radio DTM:https://radio-dtm.jp/page